先日講師をつとめたセミナーで受講者の方から、商標登録における商品の類似について、「例えば、”菓子”と”パン”は似ているのか?」とのご質問がありました。
確かに、商品・サービスの類似は、商標権を取得する場面でも侵害の場面でも問題になりますし、気になるところですね。
そこで、今回は商標登録における商品・サービスの同一・類似について考えてみたいと思います。
取引の実態で決まる!
結論からいいますと、商品・サービスの同一・類似は取引の実態によって決まります。
例えば、紛らわしい商標を使用すると、同じ事業者が製造する商品だと誤認されるおそれがあるかどうか、で判断されます。
とはいえ、商標権を取得する場面、すなわち商標登録の審査においては、判断の統一性と迅速性が要求されますので、特許庁は取引の実態を考慮した「類似商品・役務審査基準」を作成していて、その基準に従って商品・サービスの類否を判断します。
一方、侵害の場面では、個々の裁判において裁判官が商品・サービスの類否を判断します。
裁判官の判断は、特許庁が使用する「類似商品・役務審査基準」に拘束されるものではなく、裁判官が「類似商品・役務審査基準」とは異なる判断をすることもあります。
審査における判断
まず商標登録手続の審査における判断をみてみましょう。
類似商品・役務審査基準
特許庁における商標登録の審査では、「類似商品・役務審査基準」に基づいて、審査官が統一的に商品・サービスの類否を判断しています。
類似群コード
「類似商品・役務審査基準」では、類似すると思われる商品・サービスをグループ分けし、そのグループごとに数字とアルファベットの5文字からなる「類似群コード」を付しています。
例えば、下記の類似群コード「30A01」の「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドック、ミートパイ」は類似すると推定されます。
また、下記の類似群コード「32F06」の「ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ」は類似すると推定されます。
他方、類似群コードが異なる「中華まんじゅう(類似群コード:30A01)」と「ぎょうざ(類似群コード:32F06)」は類似しないと推定されます。
なお、「類似商品・役務審査基準」における商品・サービスの類否はあくまで「推定」です。
後述するように、裁判などで商品・サービスの判断が覆る場合があり、同じ類似群コードが付けられた商品・サービスであっても裁判では類似しないと判断されることもあります。
商品・サービスの類否の基準
「商標審査基準」によれば、原則としては「類似商品・役務審査基準」によるとし、例えば、次の基準を総合的に考慮するとしています。
商標審査基準 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp) 第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由) 十 第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)(PDF:819KB) |
商品の類否について | サービスの類否について |
①生産部門が一致するかどうか ②販売部門が一致するかどうか ③原材料及び品質が一致するかどうか ④用途が一致するかどうか ⑤需要者の範囲が一致するかどうか ⑥完成品と部品との関係にあるかどうか | ①提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか ②提供に関連する物品が一致するかどうか ③需要者の範囲が一致するかどうか ④業種が同じかどうか ⑤そのサービスに関する業務や事業者を規制する法律が 同じかどうか ⑥同一の事業者が提供するものであるかどうか |
商品・サービス間の類否について |
①商品の製造・販売とサービスの提供が同一の事業者によって行われているのが一般的であるかどうか ②商品とサービスの用途が一致するかどうか ③商品の販売場所とサービスの提供場所が一致するかどうか ④需要者の範囲が一致するかどうか |
商品・サービス区分
ところで、「第1類」、「第2類」などの区分は、出願・審査の便宜のためのものであり、商品・サービスの類否を定めるものではありません。
同じ区分に属する商品・サービスでも、類似群コードが異なることもありますし、異なる区分に属する商品・サービスでも同じ類似群コードが付与されていることもあります。
侵害の場面における判断
では、侵害の場面ではどうでしょうか。
侵害についての裁判の中で、紛らわしい商標を使用している具体的な商品・サービスが、登録商標における指定商品・サービスと同一・類似かが争われ、その判断は裁判官が行います。
その結果、下記のように、「類似商品・役務審査基準」とは異なる判断がなされることがあります。
ヨーデル事件
→「薬剤」と「健康補助食品」は類似すると判断
※「類似商品・役務審査基準」では、「薬剤」は類似群コード「01B01」、「健康補助食品(栄養補助食品・サプリメント)」は類似群コード「32F15」であり、「薬剤」と「健康補助食品(栄養補助食品・サプリメント)」は類似しないと推定されています。
ユニキューブ事件
→「建物の売買」と「建築工事請負」は類似すると判断
※「類似商品・役務審査基準」では、「建物の売買」は類似群コード「36D01」、「建築工事」は類似群コード「37A01」であり、「建物の売買」と「建築工事)」は類似しないと推定されています。
ジェイファーム事件
→「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と「シロップ」、「ジャム」は類似しないと判断
※「類似商品・役務審査基準」では、「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は類似群コード「35K03 32F01 32F02 32F03 32F04 32F05 32F06 32F07 32F08 32F09 32F10 32F11 32F12 32F13 32F14 32F15 32F16 32F17」、「シロップ、ジャム」は類似群コード「32F04」であり、「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と「シロップ、ジャム」は類似すると推定されています。
出願の際に気を付けたいこと
上記のように、商品・サービスの類否は審査と侵害の場面では判断が異なることがあります。
そこで、出願書類における「指定商品・指定役務」を決める際には、審査だけでなく、侵害の場面を考慮して、競合他社の実態も含めて検討することをおすすめします。
<考慮すべきポイント>
- 自分で実際に使用する商品・サービス
- 自分で将来使用する可能性のある商品・サービス
- 競合他社が使用している又は使用する可能性のある商品・サービス
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