10/27付けのブログで、商品・サービスの同一・類似について解説しましたが、今回はその中の「小売等役務」と「商品」の類否に関する判決をご紹介します。
小売等役務とは
「小売等役務」はデパート、スーパー、コンビニエンスストアなどの小売業や卸売業の方々が行っている、店舗設計や品揃え、商品展示、接客サービス、カタログを通じた商品の選択の工夫等といった、顧客に対するサービスです。
従来、このような小売や卸売サービスは、商品を販売するための付随的なものであるとして、商標法上の「役務」には該当しないものとされおり、小売業者や卸売業者がサービス活動に使用する商標は「役務」に係る商標としては保護されておらず、下記のような問題が生じていました。
従来の問題1
スーパーのショッピングカートに付したマークや、デパートの店員の名札に付したマークは、商品との具体的な関連性を見いだすことができず、商品に係る商標としての商標権では保護されにくい。
従来の問題2
デパートなどの多くの種類の商品を取り扱う小売業者や卸売業者が商標登録する場合、多数の区分に分類された商品を指定して出願しなければならず、区分の数に応じて課されている出願手数料や登録料などにかかる費用が大きな負担となっている。
そこで、平成19年4月に小売等役務商標制度がスタートし、小売業や卸売業の方々が使用するマークをサービスマーク(役務商標)として保護することができるようになりました。
審査における「小売等役務」と「商品」の類否
特許庁における商標登録の審査では、「類似商品・役務審査基準」に基づいて、審査官が統一的に商品・サービスの類否を判断しています。
「類似商品・役務審査基準」では、「〇〇(商品)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」という「小売等役務」と「〇〇(商品)」は類似すると推定されています。
侵害の場面における「小売等役務」と「商品」の類否
他方、侵害の場面では、個々の裁判において、紛らわしい商標を使用すると、同じ事業者が製造する商品だと誤認されるおそれがあるかどうかといった取引の実態を考慮して、商品・サービスの類否が判断されます。
そのため、裁判では下記のように具体的な商品の内容によって異なる判断がなされています。
モンシュシュ事件
「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と「菓子」は類似すると判断
~洋菓子の小売は、造販売と同一事業者によって行われるのが一般的で、用途、販売、提供場所、需要者の範囲等も商品(洋菓子)と一致している、と判示されています。
→「類似商品・役務審査基準」と同じ判断
ジェイファーム事件
「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と「シロップ」、「ジャム」(「加工食料品」)は類似しないと判断
~ジャム等の加工食料品の製造・販売と通販サイト等の小売等役務の提供が同一事業者によって行われているのが通常であるとまでは認めることができない、と判示されています。
→「類似商品・役務審査基準」とは異なる判断
出願時の注意点
侵害の場面では、「小売等役務」と「〇〇(商品)」というくくりで一律に判断されておらず、菓子ジャム、シロップなどの個々の商品ごとに、製造・販売と通販などの小売が同一事業者によって行われているかどうか、で判断されています。
このことから、商品に関わる商標を出願する際には、将来のビジネスの広がりやその商品の製造・販売と小売等を同一の事業者が行っている状況があるかどうかを考慮して、商品区分と小売等役務の第35類の両方についての登録を検討したほうがよいかもしれませんね。
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