前回に引き続き、商標法改正に伴う商標審査基準改定の話です。
今回は他人の氏名(フルネーム)を含む商標の商標登録に関する審査基準です。
フルネームを含む商標が登録しやすく!
氏名(フルネーム)を含む商標については、現在は複数の同姓同名の他人がいる場合、全員の承諾がなければ登録は認められませんが、改正後は一定の知名度のある同姓同名の他人の承諾のみで登録が認められるようになります。
もし同姓同名の他人が複数存在したとしても、一定の知名度のある同姓同名がいない場合は承諾は不要となります。
そこで、改正のポイントである、「一定の知名度」の判断に関する審査基準をみてみましょう。
「商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名」
改訂された審査基準では、承諾が必要な「一定の知名度」について、「商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名」と記載されており、「商標の使用をする商品又は役務の分野」と「需要者の間に広く認識されている氏名」に分けて解説されています。
「商標の使用をする商品又は役務の分野」について
「商標の使用をする商品又は役務の分野」の判断について、改訂された審査基準には下記のように記載されています。
「商標の使用をする商品又は役務の分野」の判断 人格権保護の見地から、当該商標の指定商品又は指定役務のみならず、当該他人と関連性を有する商品又は役務等をも勘案する。 |
上記の「当該他人と関連性を有する商品又は役務等」について、審査基準に具体的な例は記載されていませんが、改正の検討過程の資料には下記のように、「中華料理の提供」と「チャーハンのもと」のようなサービスと商品についても、その関連性が考慮され得ると記載されています。
第33回商標審査基準ワーキンググループ「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和に伴う商標審査基準の改訂について」資料1
論点①「他人の氏名」に課す一定の知名度の要件(8頁) (例) ・中華料理人特許太郎氏(以下「T氏」という。)について、T氏がオーナーの中華レストランが一地方において複数軒存在しており、新聞においても複数回取り上げられている。T氏とは全く関係のない者が、商標「特許太郎」を指定商品が29類「チャーハンのもと」で出願した。 →一地方においてT氏は43類「中華料理の提供」の役務において相当程度需要者に知られているところ、当該役務は、上記指定商品と密接な関係を有することから、同指定商品との関係でもT氏の氏名が結びつけられるおそれがある、すなわちT氏の人格的利益を損ねる蓋然性が高いため、4条1項8号に該当する。 |
「需要者の間に広く認識されている氏名」について
「需要者の間に広く認識されている氏名」の判断について、改訂された審査基準には下記のように記載されています。
「需要者の間に広く認識されている氏名」の判断 人格権保護の見地から、その他人の氏名が認識されている地理的・事業的範囲を十分に考慮した上で、その商品又は役務に氏名が使用された場合に、当該他人を想起・連想し得るかどうかに留意する。 |
これに関しては、改正の検討過程の資料には、全国的に知られている者やすべての需要者層に知られている者でなくても、「一定の知名度」を有する他人に該当しうると記載されています。
第33回商標審査基準ワーキンググループ「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和に伴う商標審査基準の改訂について」資料1
論点①「他人の氏名」に課す一定の知名度の要件(9頁) (趣旨) ・商標法には、知名度を要件として課す他の規定が存在するが、条文ごとに趣旨が異なるため、求める知名度の程度には差がある。 ・「需要者の間に広く認識されている」の審査内容を定めるにあたっては、人格的利益の保護適格としての線引きを考えることになるが、全国的に知られている者やすべての需要者層に知られている者でなくとも(例:ある学問分野で知られた者)保護から除外する理由はなく、同号における周知性の判断に際しては、人格的利益の保護という観点から、その他人の氏名が認識されている範囲を充分に考慮した上で、その商品又は役務に氏名が使用された場合に、相当程度の需要者が当該他人を想起し得るかどうか等に留意すべきと考えられる。 |
「一定の知名度」については、改訂された審査基準でもちょっとわかりにくいかもしれませんね。
今後の事例を待ちたいと思います。
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