今回はリンゴのブランド戦略のお話です。
以前、果実のブランド戦略にみる品種名と商標の使い分けのところでお伝えしたとおり、日本でも果物の商標権を活用したブランド戦略が少しずつ浸透しつつありますが、海外では1990年代から商標権を活用したシステムが登場し、リンゴのブランド育成に大きな役割を果たしてきました。
クラブ制品種とは?
「リンゴのクラブ制品種」ってご存じですか?
私も最近、公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会主催の農業知財オンライン勉強会ウェビナーで知ったんですが、「リンゴのクラブ制品種」は商標権を活用したリンゴのブランド戦略のためのシステムです。
新品種を開発した育成権者が、会員となる苗木業者、生産者等とクラブを組織して、苗木やリンゴの品質を管理するとともに、会員のみに苗木の増殖やリンゴの生産、商標の使用を許諾する、ブランドの保護育成のためのシステムです。
クラブ制品種の代表的なものとして、後でご紹介する「PINK LADY」、「Opal」があるんですが、実は、これらのリンゴ、カナダ滞在中に食べたことがあるんです。
カナダでは年中10品種くらいのリンゴがスーパーに並んでいるのですが、その中でもこの2つは、見た目が際立っていて、味も美味しく、今でもよく覚えています。しかも、値段が安くないのによく売れていて、ブランド戦略がうまくいっていることがよくわかります。
クラブ制のメリット
クラブ制のメリットについて、一般的なリンゴの生産の流れと比較をしながら考えてみます。
一般的なリンゴの生産の流れ
新品種を開発した育成権者は、苗木業者に苗木の増殖を許諾し、その対価としてロイヤリティを得ます。その後は、苗木業者が生産者に苗木の販売することになり、そこに育成権者は関与しません。
一般的な生産の流れの一例
そのため、ブランド戦略上次のような課題があります。
<課題>
1.育成権者が栽培方法や生産されたリンゴの品質を管理することができない。
2.育成権者がロイヤリティ収入を得る期間が育成者権の存続期間に限られる(永年性植物の育成者権の存続期間は30年)。
クラブ制によるリンゴの生産の流れ
一方、クラブ制では、会員組織を通じて、育成権者が生産者との関わりを持つことができるため、栽培方法やリンゴの品質にも関与することができます。
また、リンゴの販売に際して、品種名ではなく登録商標を使用するため、育成者権が消滅した後も登録商標の使用に関するロイヤリティを得ることができ、商標の使用を管理することができます。
クラブ制による生産の流れの一例
そのため、クラブ制は、下記のように一般的な生産の流れにおける課題を解消することができる、ブランド戦略上有効なシステムだといえます。
一般的な流れの「課題1」について
→育成権者が生産者とクラブ組織を通じて関わることができるので、栽培方法やリンゴの品質の管理をすることができる。
一般的な流れの「課題2」について
→育成者権が消滅した後も、登録商標の使用についてロイヤリティを得ることができる。
カナダで出会ったクラブ制品種
下記の2種類のリンゴは実際に食べたことのあるクラブ制品種のリンゴです。
どちらも美味しかったですよ! 値段は比較的高めですが、よく売れていました。
「PINK LADYⓇ」
品種名は「Cripps Pink」ですが、販売においては登録商標「PINK LADY」が使用されています。
皮がピンク色で、一般的な赤色や薄緑色のリンゴに比べて上品な印象を受けます。
「PINK LADY」は見た目にぴったりのネーミングです。
「OpalⓇ」
品種名は「UEB 3264/2」ですが、販売においては登録商標「Opal」が使用されています。
皮が黄色で、スーパーでもひときわ目立ちます。
「Opal」の由来は、宝石の「オパール」かもしれません。
参考文献 パテント2021 Vol. 74「クラブ」制リンゴ品種の知的財産に関する調査分析/日本弁理士会 |
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