― 造語を考える一つの指針
今回はネーミングの考え方の続きです。
造語はオリジナルの言葉。
一から考えなければならないので、ちょっとハードルが高いですよね。
そこで、そのハードルを下げるコツをご紹介します。
それは、「イメージ系」、「説明系」のどちらか(もしくは両方)で発想してみる、というものです。
「イメージ系」~商品のイメージや消費者が使った(食べた、飲んだ)ときの感覚や感想を表したネーミング
例えば、清涼飲料「なっちゃん」は、消費者に親しんでもらえるよう、かわいくて楽しそうなイメージを想起させるように名付けられています。
「説明系」~製法や使い方、効能などを表したネーミング
例えば、冷却ジェルシート「熱さまシート」は熱をさますためのシート、という商品の機能を消費者にわかりやすく伝えるように名付けられています。
「イメージ系」、「説明系」の考え方は教育学者の齋藤孝さんの著書に書かれていたものですが、わかりやすく取り入れやすいと思います。
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― イメージ系のネーミング
前回ご紹介したお菓子の売り上げランキング上位の造語のネーミングも「イメージ系」、「説明系」に分類できます。
まずは、「イメージ系」から。
カントリーマアム
「カントリーマアム」は、アメリカの「田舎のお母さん(country ma'am)」の手作りクッキーをイメージさせるものとして考え出されたネーミングです。
https://www.fujiya-peko.co.jp/contact/faq/faq01/s009.html
カントリーマアムの発売は1984年。当時は固いクッキーが主流だったところ、初めてのやわらか食感に衝撃を受けたことを覚えています。
アルフォート
「アルフォート」は、チョコレートにデザインされている帆船から「冒険」、「夢」、「ロマン」等をイメージしたネーミングとのことです。
https://voc.bourbon.co.jp/faq/show/907?category_id=75&site_domain=default
アルフォートはローマ字だと「Alfort」。「アルフォート(Alfort)」のどのあたりが「冒険」、「夢」、「ロマン」に該当するのかよくわからないというのが正直なところですが、「アルフォート」全体として大海原をイメージさせるという感じなのではないかと思います。
アルフォートの発売は1994年。実のところ、初めて食べたのがごく最近なんですが、特にビスケット部分がいい感じで、ちょくちょく買うようになりました。大きさもちょうどいいですし。ロングセラーも納得です。
キットカット
1935年頃イギリスで大人気となった、ウェハースをチョコレートで包んだ「チョコレートクリスプ」。「チョコレートクリスプ」が長いので、「キットカット」のブランド名をつけて「キットカット チョコレートクリスプ」としたのが、「キットカット」の由来とのこと。
キットカット・ヒストリー | キットカットを知る | KITKAT(キットカット) (nestle.jp)
とはいえ、「キットカット」って何?という疑問が残るので調べてみると、イギリスのクリストファー・カットさん(クリストファーさんの愛称が「キット」)が経営していた食堂で提供されていた羊肉のパイが「キット・カット」だったとのことです。
羊肉のパイとチョコレートクリスプの関係に疑問は残りますが、「キットカット」の響きがサクッと食べられる食感にピッタリだと考えたのかもしれませんね。
「キットカット」の日本での発売は1974年。当時は、その赤いパッケージが印象的で、イギリスからやって来たオシャレなチョコレート!という印象でした。最近そのおいしさを再認識して、先日51個入りの箱を買ってしまい、いまも毎日食べ続けています。フレーバーの種類も豊富で飽きないですしね。
― 説明系のネーミング
そして、説明系は「チョコレート効果」。
チョコレート効果
「チョコレート効果」はチョコレートの成分が健康によい効果をもたらすことを伝えるネーミングです。
健康を考える人たちに注目されているカカオポリフェノールは、1度にたくさん摂取しても排出されてしまうので、必要な分を毎日少しずつ摂り続けることが大切で、1日3枚から5枚がおすすめとのことです。
チョコレート効果|株式会社 明治 - Meiji Co., Ltd.
― 説明系のネーミングは商標登録が難しいケースも!
説明系のネーミングは、商品の特徴をわかりやすく伝えることができるので、「写ルンです」、「おさいふケータイ」など、消費者に浸透しやすいという長所があるのですが、商標登録の場面になると壁にぶちあたることが多いんです。
というのも、商標登録にはいくつか要件があって、その一つに商品の内容の説明だけではないこと、というのがあるためです。
例えば、「北海道生クリームチョコレート」。
「北海道でつくった生クリームを使ったチョコレート」という商品の内容の説明となってしまっているので、それだけだと商標登録は認められません。商標は自分の商品と他人の商品を区別するためのものなので、「北海道生クリームチョコレート」だけだと誰の商品なのかわからないためです。
また、「北海道でつくった生クリームを使ったチョコレート」を作ったり売ったりする人は誰でも「北海道生クリームチョコレート」を使いたいので、誰かひとりに独占させると弊害が生じるという観点からも商標登録は認められません。
もし商標登録したいときは、例えば「つじのかの北海道生クリームチョコレート」のように、他人と自分の商品を区別できるようなものをプラスした「〇〇北海道生クリームチョコレート」のような構成で商標登録することになります。
前回ご紹介した「柿の種」も亀田製菓や越後製菓の社名やマークをプラスした「〇〇柿の種」として商標登録されていましたね。ヒット商品に学ぶネーミングのつくり方 - つじのか国際商標事務所 (tsujinoka.com)
実際のところ、「チョコレート効果」も商標登録までの道のりは険しいものでした。
商標登録の審査においては、商品の機能や効果も内容の説明に該当すると判断されるケースが多いためです。
「チョコレート効果」は、一度目の出願では商品の内容の説明にすぎないという理由で拒絶され、二度目の出願でも同じ理由で拒絶され、それに反論する意見書を提出して、やっと登録が認められています。
他方、「チョコレート効果」とは別に「〇〇チョコレート効果」の形や商品パッケージについての商標も商標登録されています。
― イメージ系?説明系?
これまで見てきたように、お菓子は感覚に訴えるようなイメージ系が多いですが、商品によっては説明系が多いこともあると思います。
例えば、文房具だとシャープペンシルのネーミング「クルトガ」(芯が回ってトガりつづける)のように機能を説明するもの、医薬品だと「ナイシトール」(内臓脂肪をとる(落とす))のように効果を想起させるようなものが多いですね。
造語のハードル、ちょっと下がりましたか?
おやつでも食べながらゆっくり考えてみましょうか。