品種名だけじゃない!果実の名前
いきなりですが問題です。
次の3つは果物の名前です。この3つの名前の中で品種名はどれでしょう?
- あまおう(イチゴ)
- でこぽん(柑橘)
- 紅ロマン(リンゴ)
実は、どれも品種名ではありません。すべて登録商標なんです。
みなさん、果実の名前はどれも品種名だと思っていたのではないでしょうか?
とちおとめ(イチゴ)、紅ほっぺ(イチゴ)、清見(柑橘)、せとか(柑橘)、ふじ(リンゴ)、紅玉(リンゴ)、巨峰(ブドウ)、シャインマスカット(ブドウ)、二十世紀(ナシ)、幸水(ナシ)など、おなじみの果実の名前はどれも品種名ですから、無理もないですね。
しかし、最近は果実のブランド化戦略として登録商標の使用が増えているんです。
果実のブランド化戦略をみていく前に、まずは品種名と商標の基本をおさえておきましょう。
品種を識別するための「品種名」
品種名はその品種と他の品種を識別するための名称です。
品種には、すでに普及している「一般品種」のほかに「登録品種」があります。
「登録品種」は、種苗法により定められた「品種登録制度」により農林水産省に登録された、一定の要件を満たす植物の新品種です。
「品種登録制度」は、種苗法により定められたもので、育成者に 「育成者権」を付与して知的財産として保護する制度です。
そう、「育成者権」も知的財産権の一つなんですね。
「育成者権」を有する育成者権者は、登録品種の種苗、収穫物及び一定の加工品を独占的に利用することができます。したがって、育成者権者以外の人は育成者権者の許諾を得なければ登録品種を利用することはできません。
新品種の育成には、専門的な知識、技術はもちろん、長期にわたる労力と多額の費用が必要です。他方、一旦育成された品種については、第三者がこれを容易に増殖することができてしまいます。そこで、「育成者権」として、新品種に対する投資を回収するための新品種を保護する期間を設けて、新品種の育成を奨励しているんです。
また、種苗は、外観からのみでは発芽率等の品質や生産地の識別が困難です。そのため、種苗の適正な流通を図り、種苗の需要者である生産者を保護するために、登録品種の販売の際には「登録品種名」の使用が義務付けられています。
登録品種として保護される植物には、稲、小麦などの穀物、いも類、野菜、果樹、茶、サトウキビ、てん菜、いぐさ、花きなどがあります。
育成者権の存続期間は、果樹、材木、鑑賞樹などは30年、その他の一般的な植物は25年です。
育成者権が消滅した後は、登録品種は一般品種となりますので、その名称もその品種を指す一般名称として取り扱われるようになります。
登録品種名(育成者権)
法・制度 | 種苗法・品種登録制度 |
登録先 | 農林水産省 |
名称の要素 | 文字等(漢字、平仮名、片仮名、アルファベットの文字、数字) |
分野 | 稲、小麦などの穀物、いも類、野菜、果樹、茶、サトウキビ、てん菜、いぐさ、花きなどの植物 |
保護期間 | 果樹、材木、鑑賞樹などは30年、その他の一般的な植物は25年 |
商品・サービスを識別するための「商標」
商標は自分の商品・サービスと他人の商品・サービスを識別するための目印です。
「登録商標」は、商標法により定められた「商標登録制度」により特許庁に登録された商標であり、商標とその商標を使用する商品・サービスを組み合わせた「商標権」として保護されます。
「商標権」は、「登録商標」の使用を一定の商品・サービス分野で独占できる権利です。
「登録商標」として保護される商標には、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたもの、これらの他に、動き、ホログラム、音などの新しいタイプの商標があります。
商品・サービス分野は 果実、野菜、穀物などの収穫物はもちろん、菓子、ジャム、ジュースなどの加工品、レストラン、観光農園などのサービス、その他世の中にあるあらゆる商品・サービスが対象となり、その商標を使用する、または使用する予定のある商品・サービスを権利範囲とすることができます。
商標権の存続期間は10年ですが、更新できるので半永久的に商標権を存続させることができます。
そのため、登録商標は、商標権が更新される限り、登録商標として、商標権者がその使用をコントロールすることができます。
「登録商標制度」は商標を使用する商品やサービスに対する信頼や安心感といったブランドイメージを保護するものであり、ロングセラー商品・サービスには信頼や安心感が蓄積され大きくなっていき、その保護する必要性が高まってくるため、商標権は更新できるようになっているのです。
登録商標(商標権)
法・制度 | 商標法・商標登録制度 |
登録先 | 特許庁 |
商標の種類 | 文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたもの、動き、ホログラム、音など |
分野 | 世の中にあるあらゆる商品・サービス |
保護期間 | 10年(更新可能) |
登録品種名と登録商標の調整
これまでみてきたように登録品種名と登録商標は、制度や登録先が異なるものの、種苗、果実、野菜、穀物などの収穫物や加工品などの一定の分野での重なりがあるため、その登録にあたっては調整が図られています。
つまり、種苗、収穫物及び一定の加工品分野においては、同一・類似の名称の品種名、商標が並存して登録されないようになっているんです。
具体的には、品種登録制度においては、種苗又はこれと類似の商品に関する役務についての登録商標と同一又は類似の品種名称は登録が認められません。一方、商標登録制度においては、品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務についての登録は認められません。
登録品種名と登録商標の違い
登録品種名、登録商標どちらも果実などの名前として知的財産権で保護されるものではありますが、その制度の目的などから大きな違いがあります。
違いのなかでも大きいのが「保護期間」と「分野の広さ」です。
まずは、保護期間。
育成者権は25〜30年で消滅するのに対し、商標権は更新すれば半永久的に存続させることができます。
登録品種名の場合、育成者権が消滅した後は、登録品種が一般品種となり、その登録品種名もその品種を指す一般名称として取り扱われるようになります。すなわち、育成者権者のコントロールが及ばない、誰でも使える名称となります。
一方、登録商標の場合、更新により商標権が存続する限りは、商標権者がその使用をコントロールすることができます。
これは、制度の目的の違いによるものです。
「品種登録制度」の目的は新品種の育成の奨励であり、新しい品種ほど保護する価値があるのに対し、「登録商標制度」の目的は商標を使用する商品やサービスに対する信頼や安心感を保護するものであり、長い間使われる商標ほど保護する価値があるのです。
次に、分野の広さ。
登録品種名の範囲は種苗、収穫物及び一定の加工品のみであるのに対し、登録商標の範囲はこれらに限定されず、必要に応じて、レストランや小売販売などのサービスも権利範囲とすることができます。
近年は6次産業化の取り組みとして、生産者が収穫物を加工し、流通・販売するなど、経営の多角化が進んでおり、果実や野菜の名称を収穫物の範囲を超えて使用する場面が増えています。特に育成者権でフォローされない加工品やレストラン、観光農園などのサービス分野での使用が想定される場合は、登録商標での対応が必要となります。
これは「登録品種名」はその登録品種と他の品種を識別するものであるのに対し、「登録商標」は商標権者が販売する商品(または提供するサービス)と他人の商品(またはサービス)を識別するためのものである、という役割の違いによるものです。
よって、果実をその加工品なども含めて広く、そして消費者に末永く愛されるブランド果実に育てるためには、登録商標を利用するのが効果的だといえます。
登録商標を利用したブランド戦略
従来は果実や野菜の名前といえば、品種名であることがほとんどでしたが、近年はブランド化を図るために、登録商標の利用が増えています。
商標権者が、収穫物である果実、その加工品などを販売する際の登録商標の使用について、使用者と使用許諾契約を締結して、果実の品質や登録商標の使用の仕方など管理して、ブランド形成・維持を図るケースが多くなっているんです。
それでは、登録商標を利用してブランド化を図っている果実をご紹介します。
イチゴ | 登録商標 | 品種名 |
あまおう | 福岡S6号 | |
スカイベリー | 栃木 i27 号 | |
スウィーティー・アマン | 信大BS8-9 |
カンキツ | 登録商標 | 品種名 |
でこぽん | 不知火 | |
紅まどんな | 愛媛果試第28号 | |
紀のゆらら | YN26 |
リンゴ | 登録商標 | 品種名 |
紅いわて | 岩手7号 | |
紅ロマン | 高野1号 |
ブドウ | 登録商標 | 品種名 |
クイーンルージュ | 長果 G11 |
モモ | 登録商標 | 品種名 |
白皇 | 岡山 PEH7号 |
カキ | 登録商標 | 品種名 |
天下富舞 | ねおスイート |
キウイ | 登録商標 | 品種名 |
さぬきキウイっこ | 香川 UP-キ 1~5 号 |
こうしてみてみると、どれも味や見た目、産地のイメージを伝える、秀逸なイメージ系のネーミングですね。全部食べてみたくなりました!
オリジナルのネーミング、造語を考えるコツ - つじのか国際商標事務所 (tsujinoka.com)
まとめ ・登録品種名は・・・ 育成者権で保護される新品種の名称。その品種と他の品種を識別するためのもの。 ・登録商標は・・・ 商標権で保護される、自分の商品・サービスと他人の商品・サービスを識別するための目印。 ・登録品種名と登録商標の主な違いは・・・ 保護期間:育成者権(登録品種名)は25〜30年で消滅するのに対し、商標権(登録商標)は更新すれば半永久的に存続させることができる。 分野の広さ:登録品種名の範囲は種苗、収穫物及び一定の加工品のみであるのに対し、登録商標の範囲はこれらに限定されず、必要に応じて、レストランや小売販売などのサービスも権利範囲とすることができる。 →果実をその加工品なども含めて広く、そして末永く消費者に長く愛されるブランド果実に育てる、果実のブランド戦略においては登録商標を利用するのが効果的。 |