ネーミングライツで決めた通りや施設の名称は商標登録すべき?
先月28日、北海道北広島市に建設されている、北海道日本ハムファイターズの新球場周辺エリアの施設等の愛称が発表されました。
- アンビシャス通り
- ボールパーク通り
- セントラルアベニュー
- ユース通り
- BIGBOSS Bridge
Fビレッジ周辺エリアにおける施設愛称について | ボールパーク特設サイト 北海道北広島市 (city.kitahiroshima.hokkaido.jp)
これらの愛称(ネーミング)はすべて商標登録すべきなのでしょうか?
また、これらはネーミングライツ事業として決められたものなのですが、ネーミングライツとは何なのでしょうか?
ネーミングライツとは?
ネーミングライツは、文字通り「名前をつける権利」です。
具体的には、下記に記載されているように、施設所有者にとっては「名前をつける権利」をスポンサー企業に販売して施設の資金を調達するための手法であり、スポンサー企業にとっては「名前をつける権利」を買って施設に社名やブランドなどを付ける広告である、といえます。
ネーミング・ライツ 1980年代以降、米国で定着した、主としてスポーツ施設の建設・運用資金調達のための手法。施設の名称にスポンサー企業の社名やブランド名を付与する、広告概念。 知恵蔵「ネーミング・ライツ」の解説 ネーミング・ライツとは - コトバンク (kotobank.jp) |
日本初のネーミングライツ契約による公共施設の名称は「味の素スタジアム」です。
「味の素スタジアム」は、2003年に調布市と味の素の間で締結されたネーミングライツ契約による東京スタジアムの名称で、契約は5年間で総額12億円というものでした。同契約は更新されており、現在はスタジアムの周辺施設についても味の素関連の名称がつけられています。
<スタジアムと周辺施設の名称>
- 味の素スタジアム
- アミノバイタルフィールド
- AGFフィールド
- アジパンダ広場
- あじペン広場
ネーミングライツとは | 味の素スタジアム (ajinomotostadium.com)
ところで、今回のネーミングライツ契約は、新球場とその周辺施設の所有者である北広島市が北海道日本ハムファイターズと締結したもので、5年間で年額4,200万円となっています。
北広島市ネーミングライツ事業の実施状況 | 北海道北広島市 (city.kitahiroshima.hokkaido.jp)
また、現在、日本全国の多くの自治体でネーミングライツ契約が締結されていて、札幌市でも次の2つのスポーツ施設でネーミングライツ事業が実施されています。
<札幌市のスポーツ施設のネーミングライツ事業>
札幌市中央体育館 → 北ガスアリーナ札幌46(北海道ガス株式会社)
※15年間で総額150,000,000円
札幌市カーリング場 → どうぎんカーリングスタジアム(株式会社北海道銀行)
※約10年間で総額60,882,739円
スポーツ施設のネーミングライツについて/札幌市 (city.sapporo.jp)
通りや歩道橋の名称は商標登録すべき?
職業柄、ネーミングを決めるとすぐに「商標登録⁈」と反応してしまうのですが、これらはすべて商標登録すべきなのでしょうか?
まずは今回決まった「アンビシャス通り」、「ボールパーク通り」、「セントラルアベニュー」、「ユース通り」、「BIGBOSS Bridge」という、通りや歩道橋の名称について考えてみます。
通りや歩道橋には、番号なども含め何かしらの名称がつけられていますが、これらはすべて商標登録して商標権で保護すべき商標なのでしょうか?
商標権で保護される商標は、事業者が、自己の取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用する目印です。
私たちは、商品を購入したりサービスを利用したりするとき、事業者のマークや商品・サービスのネーミングである「商標」を一つの目印として選んでいます。そして、事業者が営業努力によって商品やサービスに対する消費者の信用を獲得し信用を積み重ねることにより、商標に「信頼がおける」「安心して買える」といったブランドイメージがついていきます。
このような、商標に対するブランドイメージを保護するのが商標権なのです。
そう考えると、通りや歩道橋の名称は、単に場所を特定するためのものであって、商品やサービスの目印とはいえません。よって、通りや歩道橋の名称は、商標権で保護される商標には該当せず、商標登録する必要ないといえそうです。
しかし、通りや歩道橋の名称であっても、商標権で保護することが必要な場合もあります。
それは、単なる地図上の場所の名称ではなく、「〇〇通り商店街」のように商品やサービスの目印として使用されるケースです。
登録商標 | 区分 | 商標権者 |
千日前道具屋筋商店街 (第4938303号) | 第8類「缶切、スプーン、フォーク」他 第21類「食器類」他 | 千日前道具屋筋商店街振興組合 |
横濱中華街 (地域団体: 第5069264号) | 第43類「横浜市中区山下町一帯における中華料理を主とする飲食物の提供」 | 横浜中華街発展会協同組合 |
また、通りの名称が商品の名称に採用されるケースも商標権で保護される商標の使用といえます。
例えば、「〇〇通りまんじゅう」としてまんじゅうを販売するような場合です。
施設の名称は商標登録すべき?
では、野球場などの施設の名称はどうでしょうか?
施設の名称も通りや歩道橋の名称のように地図上の場所を特定する名称と考えられます。
しかし、施設の場合、例えば「東京ドーム」のようなスポーツ施設であれば「野球場の提供」や「サッカー場の提供」などのサービスを行っており、「東京ドーム」は「運動施設の提供」サービスを提供する他の施設と自己を区別する目印になっています。
また、「東京ドーム」はその名称を使用したグッズも販売しており、その場合は菓子やメガホンなどの商品の目印にもなっていると考えられます。
よって、施設の名称は商品・サービスの目印として、商標権で保護される商標に該当するといえます。
実際のところ、「東京ドーム」をはじめとする「〇〇ドーム」は「運動施設の提供」やグッズなどの商品分野で商標登録されています。
<「〇〇ドーム」の登録商標>
- 東京ドーム(第3067556号他)
- 京セラドーム(第4992186号)
- 札幌ドーム(第4391488号他)
- メットライフドーム(第5978618号)
- バンテリンドームナゴヤ(第6411522号)
しかしながら、ネーミングライツの契約期間が数年単位であり、長期間の使用を前提としないものも多いため、施設の名称であっても商標登録されないケースが多いのも実情です。
他方、北海道日本ハムファイターズの新球場の名称はロゴも含めて商標登録されています。
<新球場の名称の登録商標>
- 北海道ボールパーク(第6136061号他)
ちなみに、「北海道ボールパーク」は説明系のネーミングですね。
オリジナルのネーミング、造語を考えるコツ - つじのか国際商標事務所 (tsujinoka.com)
まとめ
・ネーミングライツとは・・・
施設所有者にとっては「名前をつける権利」をスポンサー企業に販売して施設の資金を調達するための手法。
スポンサー企業にとっては「名前をつける権利」を買って施設に社名やブランドなどを付ける広告。
・通りや歩道橋の名称は・・・
単に場所を特定するためのものであって、商品やサービスの目印とはいえないため、基本的には商標登録する必要はない。
ただし、「〇〇通り商店街」のように商品やサービスの目印として使用されるケースや「〇〇通りまんじゅう」のように商品の名称に採用されるケースでは商標登録すべき。
今回の通りや歩道橋の名称は、商店街やグッズの展開によっては商標登録されるかもしれませんね。
歩道橋で待ち合わせるとカップル成立する、幸せの「BIGBOSS Bridge」キーホルダーとか?
楽しみです!