2022年7月27日に特許行政年次報告書2022年版が発行されました。
特許行政年次報告2022年版には、2021年の特許、実用新案、意匠、商標の出願、登録に関するデータが記載されています。ここでは、そのうち商標に関するデータをピックアップしてお伝えします。
特許行政年次報告書2022年版 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
出願・登録の動向
2021年の商標登録の出願件数は2020年より増加! 登録査定、登録件数は大幅に増加!
出願件数
2021年の出願件数は184,631件。
コロナ前の2019年の190,773件には及ばないものの、2020年の181,072件よりも約3,600件増加しました。
2021年の外国人による日本への出願件数は51,622件。
こちらは毎年コンスタントに増加していて、2017年からの5年間で最高値です。
51,622件のうち、中国からの出願が最も多く20,255件、続いて多いのが米国からの出願で10,302件、欧州8,227件、韓国3,741件と続きます。
登録件数
2021年の登録査定(審査に合格したという通知)の件数は185,415件。
2020年の146,708件より約39,000件増加、前年比約26.4%の大幅アップです。
2021年の登録の件数は174,098件。
こちらも2020年より135,313件よりも約39,000件増加、前年比約28.7%と大幅に増加しています。
審査の期間
登録までの期間は短くなり、コロナ前の水準に!
平均FA期間と権利化までの期間
2021年のFA期間(最初の審査結果通知までの期間)は8.0か月、商標登録までの期間は9.6か月。
2020年に比べると、それぞれ2.0か月、1.6か月短くなっています。
早期審査
商標登録の手続においては、一定の要件の下、出願人からの申請を受けて審査を通常に比べて早く実施する商標早期審査制度があります。
商標早期審査・早期審理の概要 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
2021年の早期審査の対象となった案件の早期審査の申出から最初の審査結果通知までの期間は2.1か月。
2020年の1.9か月よりもわずかに遅くなっています。
登録件数上位20社
化粧品や製薬関連会社が上位に!
2021年の登録件数第一位は「㈱資生堂 585件」、第二位「㈱コーセー 498件」、第三位「㈱サンリオ 490件」です。
ちなみに、2020年の第一位は「㈱サンリオ 674件」、第二位「花王㈱ 603件」、第三位「㈱資生堂 507件」でした。
類型別出願・登録件数
立体商標は増加、新しいタイプの商標は減少傾向!
2021年の立体商標の出願の件数は337件、2012年以降で最高の件数です。
そして、登録の件数は160件。2015年の174件に次いで多い件数です。
新しいタイプの商標は2015年の保護スタート以降減少傾向が続いており、ホログラムにいたっては2021年の出願件数は0(ゼロ)です。
審判の動向
審判の審理期間は短縮、拒絶査定不服審判の成功率は約8割!
審理の期間
2021年の平均審理期間は、拒絶査定不服審判は9.2か月、無効審判は11.5か月、異議申立ては7.9か月、取消審判は8.7か月。2020年に比べると全体的に短くなっています。
拒絶査定不服審判
「拒絶査定不服審判」は、審査の結果、拒絶査定となった場合に、出願人がその拒絶査定に不服を申し立てる審判手続です。
2021年の拒絶査定不服審判の請求件数は1,107件。2020年の742件から大幅に増えています。
拒絶査定不服審判を請求した結果、「請求成立」すなわち、拒絶査定という審査結果を覆して拒絶理由がなかった結論づけたものは626件、「請求不成立」すなわち、拒絶査定が妥当であると結論付けたものは140件でした。
請求成立と請求不成立の合計の約82%が請求成立となっていますので、拒絶査定不服審判の成功率は高いといえます。
わたしは審決・決定を定期的にチェックしていますが、確かに拒絶査定不服審判の審決では、拒絶査定が覆るケースの割合が高く、審査に比べると、市場での使用状況などを加味したより妥当な判断がなされる傾向が高いという印象があります。
無効審判
「無効審判」は、既に登録されている商標を無効化するための審判手続です。
2021年の無効審判の請求件数は93件。2020年の87件から6件増えています。
無効審判を請求した結果、「請求成立」すなわち、請求人が主張した無効の理由が認められて商標の登録が無効となったものは27件、「請求不成立」すなわち、無効の理由はなく商標の登録が維持されたものは62件で、「請求成立」は請求成立と請求不成立の合計の約30%程度となっています。
異議申立て
「異議申立て」は、商標登録後に発行される商標公報の発行から2か月の間に、第三者がその商標登録の取り消しを求める手続です。
2021年の異議申立ての申立件数は487件。2020年の360件から127件増えています。
異議申立てを行った結果、「取消決定」すなわち、申立人が主張した取消の理由が認められて商標の登録が取り消されたものは22件、「維持決定」すなわち、取消の理由はなく商標の登録が維持されたものは315件で、「取消決定」は取消決定と維持決定の合計の約7%程度となっています。
取消審判
「取消審判」は、登録されている商標について一定の取消理由があるときに、取消を求めて請求する審判手続であり、下記の4種類があります。
(1) 登録商標の不使用による取消審判 (2) 登録商標の不正使用による取消審判 (3) 同盟の一国における標章の所有者の代理人または代表者による商標の不当登録に対する取消審判 (4) 類似商標の移転に伴う混同防止の取消審判 |
2021年の取消審判の請求件数は1,128件。2020年の1,011件から117件増えています。
取消審判を請求した結果、「請求成立」すなわち、請求人が主張した取消の理由が認められて商標の登録が取り消されたものは889件、「請求不成立」すなわち、取消の理由はなく商標の登録が維持されたものは143件で、「請求成立」は請求成立と請求不成立の合計の約86%程度となっています。
請求件数1,128件中の4つの取消審判の内訳はわかりませんが、おそらく(1) 登録商標の不使用による取消審判が大部分を占めていると思います。
(1) 登録商標の不使用による取消審判は、登録商標が過去3年間使用されていないことを理由に登録を取り消す審判手続で、希望する商標を登録させることを目的として、障害となる他人の登録商標を取り除くためによく用いられるためです。
審決・決定の取消訴訟
査定系審判の審決取消取消訴訟の出訴件数は大幅に減少!
2021年の査定系審判の審決に対する取消訴訟の出訴件数は4件。2020年の16件から減少しています。
一方、当事者系審判の審決に対する取消訴訟の出訴件数は55件。2020年の37件から18件増加しています。また、異議申立ての決定に対する取消訴訟の出訴件数は3件。2020年の1件よりも増えています。
2021年の査定系審判の審決取消訴訟の「請求棄却」、すなわち拒絶審決が支持されたものが9件。「審決取消」、すなわち拒絶審決が取り消されたものが2件。
当事者系審判の審決取消訴訟の「請求棄却」は25件、「審決取消」は10件。
異議申立ての審決取消訴訟は「請求棄却」、「決定取消」ともに0(ゼロ)件。
まとめ
- 2021年の商標登録の出願件数は2020年より増加、登録査定、登録件数は大幅に増加!
- 登録までの期間は9.6か月に短縮!
- 審判の審理期間は短縮、拒絶査定不服審判の成功率は約8割!
- 査定系審判の審決取消取消訴訟の出訴件数は減少した一方で、当事者系審判の審決取消訴訟の出訴件数は増加!
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