歌手活動を休止している氷川きよしさんの愛称「Kiina」について、かつての所属事務所が行った商標登録出願に対し特許庁から拒絶理由が通知されていたというニュースが報じられました。
拒絶された理由の一つが「公序良俗違反」と聞いて驚かれた方もいるのではないでしょうか。
・《特許庁から「NO」》独立成功 氷川きよしの「Kiina」商標戦争に新展開! 長良プロダクションに下された「公序良俗違反」の正論(文春オンライン) - Yahoo!ニュース ・氷川きよしさんのKiina商標登録問題に重要な動き(栗原潔) - エキスパート - Yahoo!ニュース |
公序良俗違反に該当する場合
公序良俗に反する商標、すなわち「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の商標登録は認めれらません。
特許庁が公開している商標審査基準には、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、例えば、以下(1)から(5)に該当する場合をいう、と記載されています。
特許庁 商標審査基準 第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由) 六 第4条第1項第7号(公序良俗違反)(PDF:215KB) |
(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。 |
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。 |
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。 |
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。 |
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。 |
今回は「出願の経緯に社会的相当性を欠く」場合
拒絶理由通知には次のように記載されており、上記の(5)「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある」に該当するものとして拒絶されたことがわかります。
氷川きよし氏が歌手活動を休止しているなか、出願人が独立阻止のために商標出願を行ったという記事が確認されることから、出願人には、不正の目的をもって本願商標の出願に至ったことが推認されます。 そうすると、本願商標の出願経緯に社会的相当性を欠く事由が認められ、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するおそれがあるといえます。 |
公序良俗に反する商標の例
公序良俗に反する商標については、今回のような出願の経緯に社会的相当性を欠く場合のほか、「〇〇士」や著名な歴史上の人物の名前なども該当することがあります。
公序良俗に反する商標として、商標審査基準には下記のような例が記載されています。
① 「大学」等の文字を含み学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそれがある場合。 |
② 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合。 |
③ 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。 |
④ 国旗(外国のものを含む。)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合。 |
⑤ 音商標が、我が国でよく知られている救急車のサイレン音を認識させる場合。 |
⑥ 音商標が国歌(外国のものを含む。)を想起させる場合。 |
⑦ 品種登録出願中の品種の名称と同一又は類似の商標であって、その品種の種苗若しくはこれに類似する商品若しくは役務、又はその品種に係る収穫物若しくはこれに類似する商品若しくは役務について使用をするものについて、品種登録出願後に商標登録出願をし、当該商標登録出願に当該品種の名称の品種登録を阻害する目的があることが、情報の提供等により得られた資料から認められる場合。 |
別の拒絶理由も
今回の拒絶理由通知には、公序良俗違反のほかにも、「Kiina」が氷川きよしさんの著名な芸名であるため本人の承諾書がなければ登録は認められないという別の拒絶理由(4条1項8号)も記載されています。
特許庁 商標審査基準 第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由) 七 第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)(PDF:135KB) |
今後の出願人側の意見書による反論や対応が気になるところです。
↓ こちらもどうぞ!